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2019年6月6日
客観より主観が武器になる
チーフエコノミスト
増田 貴司

 企業人たるもの、論理的・客観的な判断に基づいて行動すべきであり、主観で動くのは好ましくない。こんな常識がはびこっている会社が多い。だが最近はビジネスの世界でも、客観ではなく主観が武器になる時代になりつつある。企業の意思決定において、論理や理性による客観的思考の優位性が下がり、直感や感性といった主観を重要すべき時代が到来した。  理由の1つに、IT(情報技術)の普及により情報取得のハードルが下がったことがある。この結果、客観的データを基に論理的に判断すれば、競合他社と同じ「正解」にたどりつき、差別化できないという問題に直面する。同質的競争の消耗戦を脱するには、主観を重視して行動するしかない。歴史をひもとけば、優れたイノベーションの多くは、論理的・客観的な判断からではなく「自分はこれがいい」という個人の強烈な主観から生まれている。  もう1つの理由は不確実性の時代となり、新技術が将来どのように使われるかが誰にも予測できないことだ。1977年に米国のコンピューター会社DECの創業者ケン・オルセン氏は、「個人が家庭にコンピューターを持つ理由など見当たらない」と語ったという。未来の技術の使われ方は専門家にも予測できない。だから、現時点の将来市場の予測などの客観情報を基に立てた戦略は有効でない。  企業で客観が好まれるのは、意思決定の客観的な理由を示せば、賢そうに見えるうえ、失敗した際の口実になるからだ。これに対し、主観的な判断は数字や前例、実績などの根拠がないため、打ち出すのに勇気がいる。  しかし、客観を追求し過ぎる企業は衰退を免れないのだ。個人の主観を信じ、他者と違うアイデアの実現を目指す組織風土を醸成することが課題といえよう。 (本稿は、2019年6月6日 日本経済新聞夕刊「十字路」 に掲載されました)