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2022年1月31日
【TBRカナリアレポート】No,22-01
量子コンピューターの得意分野は限定的
だが、実現すればその恩恵は膨大
量子コンピューターの可能性と限界
部長(産業経済調査部)
 チーフエコノミスト
福田 佳之

 今後のコンピューターについて、コア技術である半導体の微細化が限界に達し、ムーアの法則が通用しなくなり、飛躍的な性能向上は困難になるといわれています。そうした中で、現在のコンピューターの後継として期待されているのが量子コンピューターです。  量子コンピューターとは、量子力学現象を計算技術に応用したコンピューターです。量子力学とは、原子核や電子などミクロの力学世界を記述する理論体系であり、こうした世界では日常では現れない不思議な現象が生じます。例えば、異なる状態を同時にとりうるという重ね合わせと呼ばれる現象があります。量子コンピューターではこの重ね合わせを利用して0でも1でもない状態を作り出し、これらの情報単位(量子ビットと呼びます)をつなぎ合わせて並列計算を行います。通常のコンピューターでは2進法を採用して0か1しかとりませんので、通常の計算を行うには膨大な情報単位をつなげなければならず、多大なコストと時間がかかりますが、量子ビッドでは0でも1でもとりますので、ビット数はかなり減り、時間やコストもかかりません。そして、量子演算することで解への確率が増幅され、高速計算が可能となります。  では、量子コンピューターは現在のコンピューターの後継になるのかというと、そういうわけではありません。従来のコンピューターよりも圧倒的に高速な計算ができる対象はほんの100程度とされています。とはいえ、その100の中には、素因数分解、機械学習、量子化学計算、金融・量子シミュレーションが含まれており、暗号技術、人工知能、創薬、新規材料の開発、最適経路探索および金融等の商品開発などにおいて貢献が期待されているのです。  量子コンピューターの開発動向ですが、1999年に1ビットの量子コンピューターがNECの研究者によって生み出され、最初の研究開発ブームが生じました。しかし、2000年代半ば以降は低迷期に入り、2017年まで量子コンピューターのビット数は9までにとどまっていました。その後、ノイズによる計算エラーを克服する量子誤り耐性に関する研究の進展や組合せ最適化問題に特化した量子ベンチャー企業の登場で量子コンピューターの開発が再び盛んとなっています。2019年にはGoogleの量子コンピューターが特定の問題解決においてスパコンの性能を凌駕したこと、つまり量子超越性を発表したことも拍車を掛けています。現在、量子コンピューターのビット数はIBMの65ビットを筆頭に米中などの企業がしのぎを削っている状況です(表)。また、量子力学現象を作る技術として、超伝導だけでなく、イオントラップ、半導体、光を使うものがあります。  今後の開発は、量子ビット数を増やしてつなげていくものとみられます。しかし、上で挙げたような分野に投入するためには、数百万以上のビットが必要です。そのためには、計算エラーを自動補正する量子誤り耐性機能が搭載されなければなりません。さらに、半導体と違って微細化が難しいため、例えば1億ビットの量子コンピューターは体育館の大きさになるとみられており、冷凍技術や配線、熱処理などを含めた大規模化への対応が求められます。米国や中国等では国家を挙げて量子コンピューターの開発を支援する体制を構築していますが、日本も20年に制定した「量子技術イノベーション戦略」を改定して支援体制を整える予定です。  こうした内外での官民の取り組みが進むことで、量子コンピューターが社会実装されていく時期(2050年頃とされています)が早まるものと期待されています。

「TBRカナリアレポート」では、東レ経営研究所の研究員が時事的なトピック等について解説します。
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PDF : TBRカナリアレポート No.22-01(541KB)