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2011年7月26日
空洞化回避への第一歩
チーフエコノミスト
増田 貴司

 グローバル化が進むと、企業は一番ビジネスしやすい国に拠点を移すことができる。「企 業が国を選ぶ」時代には、自国の産業を強くして雇用を生み出すことが政府の重要な役割 となる。企業に冷たい政策がとられる国では、産業が衰退し、雇用が失われ、家計も貧し くなる。  民主党政権は発足当初はこの点を理解していなかった。だが、昨年には新成長戦略を発 表し、産業政策の重要性を認識したと思われた。しかし、最近の菅政権の政策運営を見る と、産業や雇用への関心を再び失ったかのようだ。  日本経済は今、産業空洞化の危機に直面している。従来から日本は、円高、高い法人税、 貿易自由化の遅れ、厳しい二酸化炭素削減目標、高い労働コストなど、製造業の競争力を 阻害する要因が山積していた。東日本大震災の後、これに電力不足が加わった。法人税減 税が見送りとなり、環太平洋経済連携協定(TPP)参加の議論が先送りされるなど、日本 の立地条件は著しく悪化している。  このままでは企業の海外シフトが加速することは確実だ。新興国需要を取り込むための 企業の海外展開や、災害対策でリスクを分散するための海外生産移転などは、合理的で不 可逆的な動きだ。しかし、これまで国内に踏みとどまっていた生産拠点が一斉にこの国を 見限って海外に移り、国内の雇用が失われる事態は回避しなければならない。  定期点検で停止した原子力発電所が再稼動できる見通しが立たず、来年の電力供給がど うなるのか誰にも分からない。首相が脱原発・再生エネルギー推進を口にしながら、いか なる方法や時間軸でそれを進めるかが示されない。このような環境下では、企業は事業計 画すら立てられない。  空洞化回避への第一歩として、政策が場当たり的で将来を予見できない状態を一刻も早 く解消する必要がある。 (本稿は、2011 年 7 月 22 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)