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2012年7月23日
日本独自の強みを生かそう
チーフエコノミスト
増田 貴司

 製造業を取り巻く環境が激変している。標準規格部品の組み合わせで一定品質の製品を 作ることが可能になり、ハイテク製品でもすぐに陳腐化し、新興国に追いつかれる時代に なった。  こうしたなか、「すり合わせ」と呼ばれる日本独自のきめ細やかな調整能力が競争力につ ながらない事例が増えてきた。多くの日本企業は自前主義の見直しや、生産の海外移転、 部品の共通化などを進めて、コスト競争力の強化を図っている。  我々は、通用しなくなった日本特有のものづくりの強みを捨て去るべきなのだろうか。 答えはノーである。誰でも作れるようになった製品分野で、生産コストの低減で生き残ろ うとしても、大量生産と低賃金という優位性を持つアジア新興国に勝つことは難しい。  今なすべきは、自身の強みや得意技を生かして、新興国にはまねのできない魅力ある商 品を作り出すことだ。そのためには日本の独自性を捨て去ってはならない。経済がグロー バル化すればするほど、文化や価値観といった深層レベルでの個別性が差異化のための重 要な武器になる。  すり合わせ、愚直なものづくり魂といった日本独自の能力は、陳腐化したわけではない。 環境変化に応じ、その使いどころや使い方を変えることが求められているのだ。  日本文化の根底で育まれてきた繊細、丁寧、緻密にものをしつらえる感性や美意識を製 品やサービスに効果的に埋め込むこと。これを作り手の自己満足のためではなく、顧客に 選ばれる魅力的な商品づくりのために推進したい。  クールジャパンも、コンテンツ産業やサブカルチャーだけの話と考えてはいけない。そ の根底に流れるクールな世界観や物語性を、ものづくりやことづくりのコンセプトに翻訳 して取り込めば、幅広い業種で独自の新しい価値を生むことができるはずだ。 (本稿は、2012 年 7 月 20 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)