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2010年11月1日
自炊できない女

 個人で本を電子化するのが広まりつつあると聞きます。  ネット上では「自炊」といわれ、裁断機で背表紙をバッサリ切って、コンパクトな高速スキャナーを使い、PC に取り込んで保存するのです。iPad などの携帯端末が出てきたこともあって、人気が高まっているのでしょう。  本を電子化することで検索性が高まり、持ち運びが便利になり、収納場所の問題が解消され、さらには古い本独特のにおいや黄ばみが気にならなくなるなど、様々なメリットがあるようです。  その一方で、うじうじした性格を如実に物語っているようで嫌なのですが、筆者のように幼少時からページに折り目をつけることにすら抵抗を感じる身としては、せっかく多くの人の手がかかって世に出てきた本が、身包み剥がされ、ただの紙の束と化してしまうのは、なんだか残酷に思えてしまうのです。電子化した後の本を捨てるとなると、さらに心が痛み、哀れな本の一生に思いを馳せ落ち込む始末です。  日本には、まだまだ紙に対する根強い愛着や慣れがあり、今日明日に市場を席巻するということはないと思いますが、子供の頃からデジタルの世界にどっぷり浸かった人達が世の中の中心になった時、いったいどのようになっているのでしょうか。音楽のダウンロードがあっという間に普及したように、本のデジタル化も珍しいことではなくなるのかもしれません。 そんなことを考えていると本に関する情報に敏感になるもので、先日、ブックデザイナー(装丁家)を特集したテレビ番組を目にしました。  ブックデザインというのは、表紙、帯、目次、本文、ページ番号、しおり等々、本を丸々一冊デザインするそうです。  例えば本文の1 ページに入れる文字数やフォントを何通りも試してみたり、題名を1 行にしてみたり2 行にしてみたり、字体を自分で考えてみたり。「デザイン」とか「センス」という才能にどうやら見放されてしまったらしい筆者にはあまりわかりませんが、その微妙な違いが本全体の雰囲気を変えるのでしょう。出版社の担当者と意見の応酬になることも多く、本の内容をイメージし形にするために試行錯誤する姿は、もはや職人の域です。  帯にもいろいろな工夫が施されています。夜景をかたどったものや、レシート風になったものなど、紙だからこそできるアイデアにあふれていて、机に置いておくだけでも絵になるような、味のある本に仕上がっていました。   ブックデザイナー曰く、手間がかかってるぞ!という感じを押し出して、手にとってみたいと思わせるのだとか。  このように装丁のアイデアや技術がすばらしい限り、紙の本はなくならないという気にさせられました。この番組で紹介されていたブックデザイナーが手がけるのは年間百冊。装丁で売り上げも左右されるそうですから、本の中に書いてあるデータだけが欲しいのではなく、本を手にした時の質感やページをめくる感覚など本自体を楽しむ人もやはりいるのです。  皮肉なものですが、手間がかからないものに対抗するには、逆に手間をかけるというのが有効な手段の一つなのかもしれません。