close

2011年4月15日
復興の旗印を早く掲げよ
チーフエコノミスト
増田 貴司

 東日本大震災の日本経済への影響を論じる場合、設備やインフラの毀損、部品の供給体 制の寸断などにより目先の景気がどれだけ下押しされるか、復興需要がいつどれほどの規 模で出てきて景気を押し上げるかといった点に議論が向かいがちだ。だが、事の本質はそ こにはない。  今回の震災は、長期的な電力不足、法人減税の見送り、環太平洋経済連携協定(TPP) への参加検討先送り、放射能汚染の懸念と風評被害などをもたらし、企業が日本に生産拠 点を置く場合のコストとリスクを上昇させた。被災地だけでなく日本全体でビジネス環境 が悪化し、産業空洞化の危機にあることを認識する必要がある。震災からの復興を元の姿 への復元でなく、新しい日本の創造につなげることが、日本の衰退を阻止する唯一の道で ある。  この観点から急を要するのは、今回の悲劇を転機として東日本を再生し、新しい日本を 創るための復興ビジョンを早急に打ち出すことだ。人々の心を未来に向かせ、挙国一致で 被災地を復活させ、新しい日本を創っていく覚悟を持続させるには、復興の旗印が不可欠 だからである。  震災後に被災地で発揮された日本人の規律正しさや強い連帯感を、今後長期にわたる復 興の過程でも生かしていくためには、心を一つに頑張ろうといった曖昧なスローガンでは 役に立たない。国民が奮い立ち、力を結集できるようなビジョンを共有しなければならな い。  さらに、海外メーカーの日本離れ、サプライチェーンからの「日本外し」の動きを食い止 めるためにも、危ない国という風評を吹き飛ばすような前向きな復興ビジョンを示すこと が大切だ。東日本の復興を日本創生につなげるという意志を内外に発信し、「日本は本気だ」 「日本は再び奇跡の復興を果たすに違いない」と外国人に思わせることが、空洞化回避の 近道だろう。 (本稿は、2011 年 4 月 13 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)