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2008年9月1日
質問力のすすめ

 「質問」とは、何だろうか。広辞苑によると「疑問または理由を問いただすこと」とある。    英語ではQuestion だが、ラテン語のQuaestio-:「探求する」から語源を発している。語源を意識すれば、ただの問いだけではなく、本質を「探究する」行為とも言える。コミュニケーションの視点で見ると、相手に自分の疑問に思っていることを問いの形で投げかけて、相手がそれに対して答えるという双方向型のコミュニケーションである。  また、1文字違いであるが、質問は詰問(きつもん)とは違う。広辞苑によると詰問は「相手を責めて問いただすこと」とある。詰問は相手に威圧感を与えるほどの迫りであり、時に不快感すら与える。一方で質問は相手に問いを投げかけることによって、より深い洞察を促し、物事の本質に迫っていく前向きなコミュニケーションである。  古代ギリシヤの有名な哲学者であるソクラテスも、質問で本質に迫ることが得意であった。母親が助産師をしていたことにちなんで、質問により、本質に迫る問答法は「ソクラテスの産婆術」と呼ばれた。一人で問題の本質に迫るのは困難が伴う。ソクラテスは、常識と思える事柄でも、敢えて質問することで、本人が本質に到達する手助けをした。  質問には様々な種類がある。まず、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンがある。前者は広く相手に考えを聞くこと。例えば「あなたはどのようにお考えですか?」という質問。後者は答えが「はい/いいえ」に限定されてしまうような、閉ざされた問いのこと。例えば「あなたはこの意見に賛成ですか?」という質問。また、具体的、抽象的な質問もある。5W1H(いつ、だれが、なにを、なぜ、どちらの、どのように)の要領で具体的に焦点を絞って聞いていく。このオープン/クローズド、具体的/抽象的な質問を巧みに使い分けて、鳥の目のように俯瞰したり、虫の目のように焦点を絞ったりを繰り返すことで、物事の本質に近付いていく。   筆者が担当している人材開発の現場でも、参加者の表層的なニーズだけではなく、なぜその研修を実施したいと思ったか、その背景となる組織の問題は何か、本質的に何を指向しているのかについて、より深い質問を投げかけるようにしている。   また、研修の場面ではグループディスカッションがある一つの方向に収束してしまう時に、「そもそも、その前提って合っているのですか?」と、研修生に素朴な投げかけをして、本人達の気づきを促すように心がけている。  質問は発する人の立場、内容によっては「詰問」と受け取られる場合がある。例えば上位者から「君、今期の予算は達成できるよな?」と問われたらとっさに「はい」と返答するしかない。同じ質問でもよりマイルドな質問に変えると「今期の予算はどのようにしたら達成できると思いますか?」と問われたら、受け手は回答の自由度や、実現に向けた行動計画の選択肢が大幅に広がるだろう。このように質問は、断定的な態度や一方的な意見の押し付けではなく、本人が自律的に考え、気づきを促す効果がある。  読者の皆様も、自分が疑問に思ったことを聞くだけではなく、質問には相手の思考をより深く、高度にする力があるという認識のもとに、ソクラテスのような「質問力」を磨いてはいかがでしょうか。