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2011年10月3日
目指せ「節電大国」
チーフエコノミスト
増田 貴司

 東日本大震災による福島第 1 原子力発電所事故の余波で発生した電力不足は、日本の投 資環境を中期的に悪化させる要因となった。一方で、電力不足という厄難は、日本が省エ ネルギー分野の強みに磨きをかけ、世界に冠たる節電大国として成長するチャンスでもあ る。  この機に日本は、利用者に不便を感じさせない効率的な節電技術やエネルギー需要を最 適に管理するシステムなどを世界に先駆けて開発してエネルギー問題を解決し、ノウハウ を新興国など海外に輸出することを目指すべきだ。  この戦略が有望な理由は 3 つある。第 1 に、日本の製造業は 1970 年代の 2 度の石油危機 に対し、省エネと省資源を追求する新技術を開発して危機を克服したばかりか、国際競争 力を高めることに成功した実績がある。日本はエネルギー環境の変化に適応して産業構造 を転換した成功体験を持っているのだ。  第 2 に、「我慢するエコ」ではなく、自分にとって気持ちのいいスタイルで節電を実現す る快適な社会のシステムを創り出すことは、日本人が本来持っている資質や価値観と相性 がよい。いわば「お家芸」である。  第 3 に、近年、おもてなし、宅配便、ラッピングなど、日本ならではの感性に裏打ちさ れたサービスが、海外で共感を持って受け入れられる素地が育ってきている。このことは 日本スタイルの節電の輸出にとって追い風となる。  ここで留意すべきは、日本が世界に訴求すべきセールスポイントは、単なるモノや技術 ではなく、快適な商品づくりの底流にある美意識や価値観だという点であり、これらを包 括的に売り込むシステムやコンセプトが大切だ。この点を間違うと、日本企業は期待の省 エネ分野においても、後発の新興国企業にシェアを奪われ、「技術で勝って事業で負ける」 恐れがあることを肝に銘じたい。 (本稿は、2011 年 9 月 28 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)