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2014年4月1日
名も知らぬガイジンさん、笑いなさい
主席研究員(市場調査担当)
岩谷 俊之

 欧州出張で飛行機を乗り継いだ時の話です。大きな空港で、出入国審査が挟まった乗り継ぎというのは時間がかかるもので、1時間程度の余裕がないと危ない。この時私が乗り継いだフランクフルト空港の標準乗り継ぎ時間もちょうど1時間でした。  ところが、この時与えられていた乗り継ぎ時間は1時間20分で、余裕はたったの20分。離陸20分前といえばもう搭乗が始まっている時間です。私としては成田行きの搭乗口を目指し、長大なターミナルビルを競歩の選手のように歩かざるを得ません。  実はこの日はたまたまホワイトデー数日前で、私は空港でお菓子を買いたかった。ドイツ製スイーツをホワイトデーに贈れば、妻や女性社員たちからの評価も少しは上がるのでは…などとヨコシマな考えを抱くヨコシマ男としてはぜひ空港でお菓子を買っておきたい。そのためにも急がねば。  出国審査をやっと抜け、脱兎のごとく買い物…と思ったら、え?今度は手荷物検査? 急いで上着を脱ぎ、金属製品をはずし、ゲートをくぐって自分の荷物が出て来るのを待っていると、そこにいた女性空港職員が突然英語で私に話しかけてきました。「スピーク ジャーマン?(ドイツ語を話すか?)」   なぜ話しかけられたのか分かりません。でもドイツ語なんて話せないのは確かですから「ノ~」と首を横に振ると、彼女はさらに英語で「ユア フェイス…(お前の顔は…)」と言い、眉間にシワを寄せて思い切りしかめ面をしてみせ、さらに「スマイル!スマイル!」と言うではありませんか。  その言葉を聞き、私は瞬間的に激しく恥じ入りました。何ということでしょう。早く買い物せねばと焦る私の顔は、はたから見てイライラの見本のような醜い人相だったに違いありません。その揚げ句、見知らぬ空港職員から「お前の顔は今こんなだ、笑いなさい」と忠告されるなんて、何とみっともない男であることか。  それにひきかえ、たたえるべきはこのドイツ人職員。彼女は仕事柄、毎日何百という搭乗客を目にしているはずですが、たまたま目についた「イライラ顔のガイジン」に、何語なら通じるかをちゃんと確認した上で「笑顔になりなさい」と声をかけてくれたのです。  その国に対する印象を形成するものはいろいろあるでしょうが「人の行為から受けた印象」がたぶん最も強く影響するはずで、親切にしてもらったという思い出のある国の印象が良いのは当然です。今回のような経験一つでも、ドイツに対する私の好感度はぐっとアップしたと思います。  一方、逆のことも考えざるを得ません。日本に来た外国人旅行者に対して自分はどう接しているか?日本にきた外国人にいきなり「笑いなさい」と声をかけるのは難しいとしても、せめて空港や駅で困っている外国人にはヘタな英語でも話しかけ、何とか力になってあげたいもの。言葉が通じるか、相手の窮状を救えるかという問題以前に、相手に気づいて話しかけるという行為自体が意味を持つこともあるはずです。「誰一人自分に気づかず、話しかけてもこないニッポン」に外国人が良い印象を持つでしょうか?  さて、フランクフルト空港の手荷物検査で「笑いなさい」と言われた私。カバンを受け取って身支度を済ませると、声をかけてくれた職員に反省?と感謝の意を表すために、かすかに知っているドイツ語で「ダンケ シェーン、チュース(どうもありがとう、じゃね)」と声をかけて別れのあいさつを交わしました。もちろん、そこにとびきりのスマイルを添えたのは言うまでもありません。