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2017年5月1日
見えないものを恐れ過ぎるな
チーフエコノミスト
増田 貴司

 先日、休暇をとってキューバへ旅行した。この国では、市街地を 1950 年代の「アメ車」など のクラシックカーが現役でタクシーとして走り回っていて、半世紀前にタイムスリップしたような 体験ができることが、旅行者を魅了する観光資産となっていた。  1959 年のキューバ革命以前に米国から輸入された車は、当然すぐ故障するが、運転手は 修理を重ねて大事に乗り続けている。こんなことができるのは、昔の車はブラックボックスが なく、自分で修理できるからだ。現在の車は、電子制御によるブラックボックス化が進み、どこ がどのように壊れたのかが見えにくいため、一般人が修理することは難しい。  人間は、見えないものに恐怖を感じがちだ。私たちが人工知能(AI)に感じる気持ち悪さの 根源にも、見えないものへの恐れがある。AI が人間の知能を上回って理解不能になり、その 思考がブラックボックス化することが怖いのだろう。  だが、現代を生きる私たちは、ブラックボックスを恐れ過ぎてはいけない。考えてみれば、 身の回りにある電卓、自動車、鉄道システム、電子レンジなどは、どれもブラックボックスの一 種だ。多くの人はその仕組みや構造、原理を理解していない。これらも登場当初は不気味が られたが、今ではすっかり必需品として受け入れられ、みな安全に使いこなしている。  このように人類は技術革新により次々と新しいブラックボックスを生み出し、初期の忌避感 を克服してそれらをうまく使いこなしていくことで文明を発展させてきたのだ。ましてや、今は 過去のトレンドを破壊する新技術が続々と開花する産業革命期である。見えないことを怖が って新技術を様子見するのでなく、それを上手に使いこなす新世界を自ら作り出す姿勢が重 要であろう。 (本稿は、2017 年 4 月 27 日 日本経済新聞夕刊「十字路」 に掲載されました)