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2012年6月1日
経営センサー6月号 2012 No.143

■特別レポート

IFRSとどう関わるべきか ―「IFRSに関するアジア調査出張」で見たしたたかな中国、賭けに出た韓国―

産業経済調査部 シニアアナリスト(金融庁 企業会計審議会 企画調整部会委員) 永井 知美

【要点(Point)】
(1)金融庁企業会計審議会は、2012年をめどに、上場企業の連結財務諸表に国際会計基準(IFRS)を強制適用するかどうかを判断するとしていたが、東日本大震災後、製造業を中心に適用延期論が強まったことなどから、2011年6月、IFRSの適用時期や範囲等の見直しに着手した。
(2)IFRSの特徴は原則主義、資産負債アプローチである。米国の会計基準設定主体との差異を解消するコンバージェンス作業等により、今後も内容が変わると見られる。
(3)2011年12月、筆者は金融庁企業会計審議会委員として「IFRSに関するアジア調査出張」に参加、中国と韓国の会計基準設定主体、証券規制当局、証券取引所、業界団体、企業、投資家、監査法人の方々のお話を伺い、意見交換するという貴重な機会を得た。
(4)中国はコンバージェンス、韓国はフルアドプションと、対照的なスタンスをとりながらも、それぞれの立場から国益を最大化しようと努めている。中国が強大な国力を背景にしたたかな会計外交を展開しているのに対して、フルアドプションに踏み切った韓国の先行きには危うさも感じられた。
(5)今回の視察で明確になったのは、IFRSの原則主義は問題が多いこと、多くの企業にとってIFRS適用はデメリットの方が大きいと思われること、会計基準のアウトソーシングは危険だということである。
(6)IFRS適用には海外子会社との基準の一本化などのメリットもある。メリットの方が大きいと思う企業は適用すればよい。ただ、IFRSは行き先のわからない電車のようなものであり、どこへ着こうと企業が責任を取らなければいけない。IFRS適用のメリット・デメリットは企業によって異なる。
日本はIFRSを任意適用にとどめるべきだろう。

PDF : 詳細(PDF:1,703KB)

■経済・産業

欧州債務危機下でのユーロ圏経済情勢と日系企業のビジネス動向

日本貿易振興機構(ジェトロ)海外調査部・欧州ロシアCIS課長 前田 篤穂

【要点(Point)】
(1)ユーロ圏で相次いだ政権交代劇は、欧州債務危機の根本的な解決に“民主主義の壁”が立ちはだかっていることを新たに印象付けた。
(2)ギリシャでは厳しい緊縮財政策が覆される可能性が出てきた。フランスも、EU財政規律の厳格化を目指す「新協定」に抵抗感を強める。
(3)欧州でビジネスを行う日系企業の主な懸念は「円高・ユーロ安」だが、欧州企業買収(M&A)による新たな販路の確保など前向きに動く企業もある。。
(4)欧州経済は歴史的な転換点を迎えており、長期的視点でリスクとチャンスの両面から今後の展開を見極める必要があるだろう。

■視点・論点

目的志向型のキャリアを問う ―ビジョンより仕事のデザインを―

人財開発研究所 代表  古畑 仁一

就活での目的志向重視の問題 来年3月卒業予定の大学生の就職活動(就活)がすでに始まっているが、学生が最初に取り組むのが自己分析である。ここでいう自己分析とは、学生が「自分自身の過去を振り返り、また現状を整理しながら、自分自身がどのような人間であるかをまず把握・理解する。続いて、社会に出ていく上での自身の人生ビジョンをイメージする。そして、どんなところでどんな仕事をすることが自己分析から得られた自己イメージと合致するかを考え、志望企業、職種、働き方を決定していく」作業である。就活本などにあおられることもあって、自己分析は「必ずやらなくてはならない」ものとして学生にとって強いプレッシャーになっている。

■環境・エネルギー

固定価格買取制度(FIT)を考える ―再生可能エネルギーの爆発的普及なるか―

京都大学大学院 地球環境学堂 教授 松下 和夫

【要点(Point)】
(1)風力や太陽光など再生可能エネルギー源を用いた電力の普及を目指し固定価格買取制度を盛り込んだ「再エネ特措法」が7月1日から施行される。
(2)提案された買取価格と期間が実施されると、再生可能エネルギーによる発電が大幅に進むと期待される。
(3)電気料金負担は一時的に大きくなるが、コスト低下による買取価格の減額、化石燃料調達コストの削減効果もあり、長期的には料金抑制につながる。

■ワーク・ライフ・バランス

“男性の育児” に関する支援策の在り方 ―男性の育児休業取得推進にばかり方向が向いてよいのか?―

ダイバーシティ&ワーク・ライフ・バランス推進部 担当部長 松井 滋樹

【要点(Point)】
(1)男性の育児休業取得率が2.63%と平成23年度は過去最高となった。
(2)共働き世帯数が専業主婦世帯数を大きく上回っている現状では、男性の育児参加が今後一層望まれる。
(3)共働きしながらの子育てにおいてはさまざまな“壁”が存在している。
(4)子育ては乳児期のみで終わるのではなく子どもの成長と共に継続していくものであるから、男性の育児休業にばかり焦点を当てるのではなく、有給休暇の取得ももっと推進していくべきである。
(5)“イクメン”という言葉が死語になるくらい男性の育児参加が当然のことである社会となっていくことを望んでいる。

PDF : 詳細(PDF:1,560KB)

■人材

人材育成の視点 上級MOT短期集中研修「戦略的技術マネジメント研修」について(第20回) ものつくりに学ぶシステム開発の原点 ~自動改札機の開発に携わって~

(独)中小企業基盤整備機構近畿本部・元 オムロン(株) 田中 寿雄 氏 講演録 企画・編著:(株)東レ経営研究所 MOT チーフディレクター 宮木 宏尚 記録・写真:フリーランス・ライター 山崎 阿弥

【要点(Point)】
(1)前例のない自動改札機の開発を成功に導いたのは、真のユーザー(乗降客)の視点に立って貫き通した開発理念。それは『性善説』に立脚し大多数の正しい券を持つお客さんの利便性を最優先することであり、どんなささいな事柄も自分たちの都合では決して妥協しない信念であった。
(2)『ユーザーフレンドリー』なシステムを作り上げるためには、徹底した「三現主義」(現場=駅を知り、現物=乗降客を見て、現実的な対策を導く)の考え方に基づき、データ収集を行った。
(3)自動改札機の開発から学んだリーダーのマインドとは
・周到な情報収集と分析により、的確にターゲットを絞り込み、そこに特化して経営資源を投入すること。
・部下を使って目標を達成させ、それを通じて人材を育て、経営資源である人材=人財を守り増やすこと。
・リーダーは『人十度、我百度』の心がけで、平時は電車型、緊急時は機関車型で組織の力を最大化すること。
・失敗を恐れ、チャレンジ精神を萎縮させてはならない。またリーダーは部下の前では決して弱音を吐いてはいけない、等。

■経済用語解説

ちょっと教えて!現代のキーワード 

「給付付き税額控除」 「産業観光」

■お薦め名著

『ロジカル・プレゼンテーション』 ―「考える能力」と「伝える能力」は別ものである―

高田 貴久 著

■ズーム・アイ

グローバル化するということ

繊維調査部長 寒川 雅彦

インドネシアのジャカルタを訪問しました。現在、インドネシアの人口は約2億4,000万人で、毎年300万人のペースで増加しています。中でも魅力は、若年層人口の厚みです。人口中央値は、27歳と日本の46歳、中国の37歳、タイの32歳と比べても若く、2030年まで人口ボーナス期にあることから労働力や購買力の将来性が期待されています。さらには、年間所得5,000ドル~3万5,000ドルの中間層が1億人超え間近に迫っていることから市場としての魅力も増大しています。

■今月のピックアップちゃーと

セレンディピティー(思いがけない発見)が研究成果に直結していた! 研究プロセスの不確実性とセレンディピティーの関係