close

2021年4月23日
脱炭素実現への2つの視点
取締役 エグゼクティブエコノミスト
増田 貴司

 日本を含む各国政府が2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル(炭素中立)」を宣言し、「脱炭素」が一大潮流となった。日本がこの炭素中立目標を達成するには、従来の延長線上の方策だけでは不可能で、非連続なイノベーションが必要不可欠である。だから、がんばってイノベーションを起こそうという論調になっている。だが、根性論や神風待望の姿勢では、その実現は心もとない。  日本が本気で脱炭素社会を目指すために重要なことを2点指摘したい。  第1に、求められるイノベーションは、技術革新だけではなく、産業構造や社会の仕組みの変革であり、既存のビジネスモデルの転換を伴うものだ。これは現状の産業構造を前提として目標を各部門に割り当てる進め方では実現できない。持続可能な新しい社会をつくるという能動的な意思に基づく長期戦略・実行計画の策定と、それを確実に実施する体制の構築が不可欠だ。  第2に、脱炭素の目標年までの30年は、決して長い期間ではない。イノベーションの歴史を振り返ると、画期的な発明や新技術の開発がなされてから、それが社会に受け入れられ、実用化されるまでには長い年月がかかるのが普通であり数十年かかることも多い。ライト兄弟の初飛行から、動力飛行機の初運用までには30年以上かかっている  とかく発明や新技術開発に期待が寄せられるが、首尾よく生まれた発明や新技術が2050年までに社会に実装される段階になっているとは限らない。脱炭素実現のカギとなるのはむしろ、手の内にある技術の徹底的なコストダウン、それを社会に普及させるための仕掛け、既存技術の新しい組み合わせや常識はずれの使い方の発見などであろう。 (本稿は、2021年4月23日 日本経済新聞夕刊「十字路」 に掲載されました)