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2022年4月25日
【世界経済評論IMPACTコラム原稿】
ロシアのウクライナ侵攻とカーボンニュートラルの取り組み
部長(産業経済調査部)
 チーフエコノミスト
福田 佳之

ロシアのウクライナ侵攻に制裁発動  2022年2月24日に起こったロシアのウクライナ侵攻は内外に衝撃を与えた。西側諸国はウクライナ国内で市民を巻き込んだ戦闘を行うロシアに対して経済制裁を発動している。具体的には、半導体や原油など特定品目の輸出入の禁止や関税引き上げ、海外送金におけるSWIFTからのロシア金融機関排除やロシア中央銀行の外貨準備凍結、ロシアの航空機や船舶の乗り入れ禁止などである。  ロシアやウクライナは世界における経済規模や貿易全体に占めるウエイトは小さい。だが、両国は世界有数の資源・商品産出国であり、輸出国として重きをなす。例えば、2020年のロシアの石油輸出は、日量743万バレルと世界輸出の11%を占め、同じくロシアの天然ガス輸出は、2,381億トンと同25%に達する。農業関連輸出では小麦はロシアが輸出全体の19%と世界第1位、ウクライナが9%と同5位を誇る。金属等の輸出では、ステンレス鋼や電池等の材料であるニッケルの地金はロシアが同22%と同1位、自動車排ガスの触媒などに使われるパラジウムもロシアが同24%と同1位を占める。 資源・商品価格が高騰  実際、両国からの資源・商品の供給が危ぶまれていて同価格は高騰している。天然ガスの価格、とりわけ欧州のガス価格の上昇が顕著で、20年央の水準から10倍以上に達している。欧州では風況に恵まれず、風力発電の稼働率が低かったため、天然ガス発電に頼るところ大であった上に、ロシアからガス供給が絞られたことが大きい。また両国の存在感が大きい原油、小麦、ニッケル、肥料などもウクライナ情勢の緊迫化に伴い、価格が上昇しており、20年央から2倍前後まで上昇している。こうした資源価格の上昇がインフレ圧力の高まりと相まって世界経済に及ぼす影響が懸念されている。各国当局の利上げ対応も経済減速に拍車をかける。  筆者はロシアのウクライナ侵攻が世界、とりわけ欧州のエネルギー情勢と脱炭素化の動きにどのような影響を与えるのか注目したい。まず、原油について油価は乱高下するものの供給余力が存在するため、乱高下は続かないとみる。ただし、世界の原油供給の流れが変化するだろう。つまり、西側のロシア制裁の結果、中国がロシア産の原油輸入を増やし、中東産の輸入を減らす。そして、減らした分が中東から欧州に流れることで帳尻を合わせることとなる。とはいえ、高値は当面続くのではないか。 欧州の脱炭素化の道はさらに険しく  次に天然ガスだが、世界、とりわけロシアに依存する欧州経済にとってガス不足やガス価高騰は深刻かつ長期化する。3月8日、欧州委員会は新たなエネルギー安全保障構想REPowerEUを発表し、液化天然ガス(LNG)輸入を増やす等で2022年末にはロシアからの天然ガス輸入を1/3に減らすことができるとしたが、実際にLNG等を調達できるかどうか不透明だ。したがって、欧州は原子力発電だけでなく、石炭火力発電も動員する必要に迫られるが、それはこれまでの世界のカーボンニュートラルの動きに逆行することになる。  一方、欧州での蓄電池への期待も高まる。天然ガス代替と再生可能エネルギーへの補完として、蓄電池が大きな役割を担うようになる。また高油価が続き、内燃機関車からEVへのシフトが一層進めば、さらなる蓄電池投資が促される。こうなると、ロシアのウクライナ侵攻はむしろ脱炭素化を促進することになるわけだが、このようにうまくいくか筆者は懐疑的だ。コロナ禍からの回復でサプライチェーンが混乱している上、蓄電池の重要な部材としてロシアからのニッケル供給が困難になるという懸念材料がある、少なくとも欧州での蓄電池投資が一本調子に進むとは考えにくいだろう。 (本稿は、国際貿易投資研究所(ITI)4月4日付「世界経済評論IMPACT」に掲載されました)