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2008年8月1日
ワーク・ライフ・バランスと職場のあり方
コンサルタント
森本 有紀

 ワーク・ライフ・バランス*」という言葉を耳にされたことはあるだろうか?(* =以下WLB)  この理解できそうで、理解できない言葉は、内閣府によって「仕事と生活の調和」と正式に訳されており、その実現のために様々な政策が存在し、国を挙げての推進活動が進んでいる。また、各企業においても人事制度や福利厚生規程の見直しが始まっている。しかし、残念ながら、それらの取り組みの多くは、少子化対策・男女共同参画であり、育児休暇や介護休暇といった「制度」の導入と取得の推進が中心である。  筆者が所属する部門では、この言葉をテーマに事業の立ち上げを検討し、勉強を始めている(あらかじめ素人であると、お断り申し上げたい)。  では、WLBを仕事と生活の調和と定義したときに、「制度」がなければ、実現できないのであろうか。  先般、WLBの第一人者ともいわれる方とお話をする機会があり、非常に感銘を受けた言葉がある。 「ワーク・ライフ・バランスとは、思いやりです」  実現に必要なのは、制度ではなく、思いやりだそうだ。制度の有無ではなく、相互に協力する、助け合う関係づくりができていないことが原因であるというのだ。  確かに、身近で思い当たる例が一つある。  筆者には、家族の介護のために退職した友人がいる。介護をされていたお母様が、体調を崩され、彼女がサポートに回るしかなかったそうだ。彼女の会社にも介護休暇の「制度」は存在したが、退職の決断をした。  介護はいつまで続くか分からない。休暇終了後も介護は続く。残念ながら報われないことも多い。しかし、限られた休暇だけでは十分な介護ができず、彼女は休暇終了後に退職するよりは、休暇を使わず(職場に迷惑をかけず)に辞める方がよいと判断した。それは、仕事をしながら(職場のサポートを受けながら)、介護を続けることができないことを感じ取った結果である。  この話を友人から聞いたとき、「WLBは思いやり」という言葉がいかに大きな概念なのか痛感した。立派な制度があるにもかかわらず、彼女のWLBは実現できなかった。筆者は、彼女の退職に至った経緯を、単に一事例としても、またその理由を職場の風土や雰囲気、と一言で片付けてはいけないと考える。  では、いかにWLBを実現するか。筆者なりに考える実現要素は三つである。第一に、個人の努力、各人が限られた時間で最大限のパフォーマンスを発揮すること、しようとすることである。自分に与えられた仕事を短い時間で全うする工夫をし、まずは、自らの力でWLBを実現する。  第二に、協力と思いやり。周囲に関心を持ち、相互に助け合う気持ちや姿勢で、同僚のWLBを実現すること(相互に、が重要である。誰にでも「生活」はある)。育児や介護を必要とする家族を持つ同僚を職場で「見る」ことはできない。職場の仲間同士、互いの生活や苦労を想像し、察し、協力することが必要である。想像も、よりリアルに、そしてその同僚の「生活」を思いやり、サポートする姿勢を持つことである。  最後が制度。会社全体のWLBを実現するのである。前述の友人の会社には、「制度」はあった。制度の存在や、取得促進だけが最も重要なことではない。  職場では様々な事情を抱えた人間が働いている。そして、自らもその一人であり、今後その事情がどのように変化するかは分からない。各人の事情を「仕方ない」ではなく、助けてあげるために何をなすべきか、を考える職場であって欲しいと考える。  筆者の部門では、個人が最大限の成果を発揮するための仕掛けを事業として確立したいと考えている。まだ、アイディアと理想だけだが、「制度」がなくとも、工夫次第で各人のWLBを実現でき、より良い職場環境をつくる手伝いができれば理想的である。また拙文を読まれて、自身の働き方や職場のあり方を見直し、周囲へ意識を向けていただく機会を増やしていただけると幸いである。