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2017年3月6日
人が横着できる技術は有望
チーフエコノミスト
増田 貴司

 仮想現実(VR)や拡張現実(AR)の技術の進歩により、数年後には、仮想世界を含めた作 り込まれた立体映像を人間の回りにまるで現実世界のように映し出し、体験できるようになる という。そうなれば、現実の行動・体験の代わりにバーチャルだけで完結するサービスを提供 するビジネスが登場してくると考えられる。  たとえば、居ながらにしてバーチャル空間に出社して働いたり、遠隔地にいる人間が集まる バーチャル 3D 会議にクリック 1 つで参加したりすることが可能になる。余暇には VR で世界遺 産めぐり・スポーツ観戦を楽しみ、その場に行ったかのような体験ができる。この結果、リアル の通勤や出張、海外旅行、競技場でのスポーツ観戦などの一定部分が、バーチャル体験へ と置き換わっていくだろう。  そんなものぐさな生き方を奨励する世界は歓迎できないという読者もいるかもしれない。だ が、そもそも技術が発達する背景には、横着したい、面倒な作業から解放されたいという人間 の飽くなき欲求がある。  1950 年代に電気自動炊飯器が発明され、急速に普及したのは、家事にかかる労力を大幅 に削減できる商品だったからだ。また、スマートフォンが普及し、いつでもどこでも情報を得ら れるようになったおかげで、多くの手間を省けるようになった。  つまり、人間が横着するための技術には将来性があり、商機がある。この意味で VR は有 望な技術だ。さらに、人がラクをできるVRは、高齢化社会において高齢者の生活の質の向上 に役立つ技術である点も重要だ。バーチャル化によって直接その場に行かなくても、肉体的 な衰えを克服して、仕事や旅行などの体験が可能になるからだ。  VR は娯楽のツールだという偏見をもたず、そのポテンシャルを注視すべきだろう。 (本稿は、2017 年 3 月 3 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)