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2010年11月15日
新興国市場としての中東地域③
チーフアナリスト
永井 知美

 本シリーズ①、②では中東地域が中国・インドといった他の新興国に比べて注目度は低 いものの、有望市場に成長する可能性があることを確認し、サウジアラビア、アラブ首長 国連邦(UAE)、エジプト、トルコの 4 ヵ国を分析対象として、自動車市場の現況と日本企 業の取り組み・競合状況を概観した。  今回は中東アフリカという大きなくくりではあるが、統計が入手可能なテレビ市場を中 心に電機市場の現況を見たい。  調査会社ディスプレイサーチによれば、中東アフリカのテレビ市場では韓国メーカーの プレゼンスが高い。液晶テレビの出荷台数シェア(2010 年 4~6 月期)ではサムスン電子が 36%と「圧勝」であり、これに LG エレクトロニクス(19%)、ソニー(18%)、中国・TCL (6%)、中国・ハイセンス(4%)が続いている。他の日本メーカーは東芝(6 位、3%)、 パナソニック(6 位、3%)、シャープ(8 位、2%)と苦しい状況である。  日本車が産油国で高い存在感を誇っているのと違い、中東電機市場では中低所得国のエ ジプト、トルコはもちろんのこと、所得水準の高いサウジや UAE でも韓国勢が攻勢を強め ている。イスタンブール(トルコ)でもドバイ(UAE)でも家電量販店の主役はサムスン電 子や LG エレクトロニクス製品である。  今でも中東では「日本電機メーカーが日本でつくった製品」に対する評価は極めて高い。 それなのに、なぜ日本電機メーカーは韓国 2 社の後塵を拝しているのだろうか。  国内に約 1 億 3,000 万人の大市場を擁する日本メーカーと違って、韓国メーカーが事業 拡大を目指すには海外に出ざるを得ない。サムスン電子、LG エレクトロニクスは 1990 年代 後半頃から海外進出を本格化させ、品質・ブランドイメージの向上、現地ニーズを取り込 んだ製品開発でプレミアムブランドに脱皮した。中東市場に早い段階から目をつけ、市場 開拓に本腰を入れている韓国 2 社に対して、多くの日本メーカーにとって重要市場は①日 本、②欧米、③中国、④中国以外の新興国の順であり、中東市場は軽視されがちである。 新興国市場では「必要な機能を盛り込んでいて手ごろな価格で手に入る商品」を求める傾 向が強い。技術重視で価格と機能のバランスは後回しになりがちな日本メーカーは、現地 ニーズにすばやく対応し手ごろな価格で提供する韓国メーカーに押されている。  韓国 2 社の特徴は「売れる商品作り」である。最先端製品へのこだわりは強くなく、他 社製品(主に日本メーカー)の製品を研究し、現地でいらない機能を捨てる一方で、ニーズ のある機能を付加する。中東地域の消費者ニーズに対応したヒット商品に、LG エレクトロ ニクスの「コーラン内蔵プラズマテレビ」やメッカの方向を指し示す機能を搭載した携帯電 話機「メッカフォン」がある。  日本電機メーカー製品は中東地域の中間上位層~富裕層には一定の支持を得ているが、 今後市場拡大が期待される中間層ボリュームゾーンからは「高品質だが高すぎる」とのイ メージを持たれている。また、中東地域の消費者は、日本企業の製品であっても日本以外 で作られた製品を胡散臭く思う傾向が強い。中国製などであっても、日本企業が作る以上 高品質であるということを広く認知させねばならないだろう。  中東電機市場は堅調な成長が期待される。日本メーカーは現地ニーズに対応した製品の 投入と製品ラインアップの拡充で中間層ボリュームゾーンの取り込みを図り、失地を回復 する必要がある。 (本稿は、財団法人 日本生産性本部「生産性新聞」2010.11.15 日号に掲載されました)