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2020年7月22日
COVID-19と欧州の復興計画「Next Generation EU」
部長(産業経済調査部)
 チーフエコノミスト
福田 佳之

各国はCOVID-19感染拡大に対して大規模な財政金融政策を発動  COVID-19による景気下押し圧力を受けて各国政府はGDP比で1~2割に及ぶ大規模な政策対応に乗り出した。その対策は大きく4つに分けられる。  第1点は、COVID-19そのものへの対策、具体的には、国内外での移動制限の措置、マスクやアルコールなど治療や感染防止のための資器材の確保、ワクチンや治療薬の開発などへの支援である。第2点は、金融緩和である。日米欧などでは金融市場の機能不全を防止することを目的として国債など金融商品を買い支えて流動性の供給と信用不安の払拭を図っている。第3点は、企業への資金繰り等の支援や家計への生活支援がある。一時的な経済ショックによる経済基盤の棄損を防ぎ、復旧期の景気回復や長期的な成長力を維持することにつながる。そして第4点として公共事業等による需要創出である。ただ現時点では公共事業の拡大は感染拡大を助長しかねず、需要創出策は限定的なものとなるだろう。 欧州において環境等の分野で復興投資拡大も  感染のピークアウトを迎えた欧州はいち早く大規模な需要創出策を打ち出した。5月27日に発表した欧州委員会の復興計画案「Next Generation EU」がそれである。予算規模は総額7,500億ユーロに達し 、中でも5,600億ユーロについてEUの優先課題である環境、デジタル化、国民経済のResilience(強靭性)の強化に関連した投資の実施等を謳う。環境については欧州の成長戦略である「欧州グリーン・ディール」と連動する。欧州グリーン・ディールとは、EUとして2050年に温室効果ガス排出が実質ゼロとなる「気候中立」を達成するという目標と、2030年に向けたEUの中間目標と関連規制の見直しなど行動計画が含まれ、環境、エネルギー、産業など広範な分野で関連政策を打ち出して経済社会の構造転換を図る。  欧州各国でも需要創出に向けての動きがあり、フランスでは自動車産業に対する総額80億ユーロの支援策を発表した。支援策にはEV購入補助金の引き上げなどEVの普及が含まれており、EVの国内生産を今後5年間で年産100万台にするという目標を掲げる。ドイツが6月に発表した総額1,300億ユーロの景気刺激策の中には、EV購入補助金の倍増や関連インフラ充実などEVの普及に関するものや内外での水素生成及び電力プラントの建設支援に関するものがある。 画に描いた餅に終わる恐れも  このような欧州の復興計画策定の背後には、原状回復ではなく、温暖化防止等を軸とする復興への独仏の強い意志がある。7月現在、加盟国間で審議されているが、これらの計画が承認・具現化に向かえば、欧州は地球温暖化防止とパリ協定順守に向けて世界をリードすることになる。  ただ欧州各国はCOVID-19の影響を和らげるため資金繰り支援や雇用維持を実施して巨額の財政赤字や債務を抱えており、どの程度まで温暖化防止等を重視した復興投資が実施できるのか疑問である。また原油など化石燃料の価格が低下しているため、再生可能エネルギーの投資採算性は悪化しており、それでも投資効率の悪い再エネ普及の投資を行うことは可能なのか首をかしげる。財源として期待されていた欧州排出権取引(EU-ETS)に基づく取引企業からのオークション収入はCOVID-19による事業活動の低迷で激減するのも気がかりである。こうした点を考慮すると、これらの環境に力点を置いた復興計画が結果的に画に描いた餅となってしまう恐れがある。  日本はリーマンショック後の民間投資の回復が鈍く、欧米から出遅れてしまった。こうした事態を繰り返すことがあってはならず、今後、欧州で温暖化防止などの分野で復興投資が具体化して拡大していくか等、動向を見守ると同時に、日本国内において積極的な投資を促す必要があろう。 (本稿は、国際貿易投資研究所(ITI)7月20日付「世界経済評論IMPACT」に掲載されました)