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2018年10月26日
リバース・イノベーションで新興国企業に対抗
シニアエコノミスト
福田 佳之

「リバース・イノベーション」戦略の先駆は GE 社  新たな海外戦略であるリバース・イノベーションとは、機能がシンプルで低価格の製品 を新興国で開発し、新興国国内は言うまでもなく、先進国においても販売することを目指 すものである。このような戦略の実行に踏み切った最初の先進国企業は米国の GE社だっ た。  GE 社の医療機器事業は、90 年代に超音波画像診断装置を世界で拡販したが、新興国で はうまくいかなかった。価格が 1 台 10 万ドル超と都市部の病院でも手が届かないほど高い だけでなく、装置が大きすぎて持ち運びが不可能で、操作も難しかったためである。新興 国国内では電気や通信などのインフラが貧弱なこともこれらの装置購入を妨げていた。  そこで、同社は中国で低価格化などの研究開発を行い、持ち運び可能で価格も従来の 3 分の 1 以下の装置を中国国内などに次々と投入した。これらの装置は従来と同じ機能を持 つわけではないが、比較的安価で使いやすく、新興国農村部の診療所でも購入できた。  さらに、低価格装置の持ち運び可能な点が先進国でも評価され、米国などの緊急医療セ ンターなどで利用されている。低価格装置の開発は新興国だけでなく先進国の隠れたニッ チ市場を開拓することにも成功したのだ。  GE 社の低価格の超音波画像診断装置は毎年 50~60%で売上が伸び、2008 年時点で 2.8 億ドルを計上した。リバース・イノベーションは心電計にも応用され、インドで開発した 簡易型の心電計は既存製品の半値以下の 800 ドルで新興国はもちろんのこと先進国で売ら れている。 他の欧米企業も追随  トラクター事業で世界首位の米国 Deere 社は、2001 年、インドで開発した低価格のトラ クターを米国内に投入した。それはインドの Mahindra & Mahindra 社が園芸用の低価格 トラクターを米国に輸出してきたことがきっかけだった。現在では、Deere 社の低価格トラ クターは米国のみならず世界中で販売されており、インド国内で生産されたトラクターの うち半分は米国などに向けて輸出されている。  2008 年にインドのタタ社は低価格車「ナノ」を世界に発表して自動車メーカーを驚かせ たが、そのタタ社と組んで同車開発に協力したのがドイツの自動車部品メーカーのボッシ ュ社である。同社は「ナノ」開発で得られた知見を活かして従来よりも 3 割程度安価なエ ンジン用の電子制御ユニット(ECU)を開発した。この ECU の廉価版には日米欧や中国 の自動車メーカーが関心を示し、20 社以上がその採用を決定したという。 経営者の関与が重要  リバース・イノベーションの実行には大きな困難が伴う。既存製品のダウングレードで なく、新しい低価格製品をゼロから開発する事業であるため、そのプロジェクトチームに 開発から販売だけでなく人事の評価査定までの一切の権限を委譲すると同時に、社内の全 資源を利用できるようにする必要がある。  さらにこれらの新しい事業は新興国に限定されるのではなく、新興国を起点とした海外 事業展開を見据えたものでなければならない。さもなければ海外進出まで視野に入れる新 興国企業と争うことができないだろう。  一方、先進国等で活動する既存の事業部は彼らの事業展開が共食いにつながることを嫌 がり横槍を入れる恐れがある。経営層はこのような動きを阻止しなければならない。  海外事業の本格展開を模索する日本企業も、海外の高成長の果実を収穫しながら新興国企業に対抗していくための戦略として、リバース・イノベーションを検討する必要があろ う。 (本稿は、公益財団法人 日本生産性本部「生産性新聞」2011.10.25 日号に掲載されました)