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2016年9月2日
つながる製造業
チーフエコノミスト
増田 貴司

 最近、製造業企業が異業種やベンチャー企業と連携したというニュースが連日報じられて いる。IoT(モノのインターネット)関連での協業が多いため、単に時流に乗った動きとみる向き もあろうが、それでは本質を見誤る恐れがある。  あらゆるモノがつながる時代となり、産業構造の地殻変動が生じつつある中で、この変化 に適応して生き残ろうとする製造業の取り組みが進行している点を見逃してはならない。  分断されていたモノがつながると、従来不可能だったビジネスモデルが実現可能になり、そ れを引っさげて参入してきた異業種・ベンチャーにより既存業界の利益が侵食される。そして、 製造業の競争軸が「モノの製造・販売」から「モノを介した顧客価値の提供」へと移行してい く。  スマートフォンの価値の源泉は今や電話機というモノにはなく、それを媒体として提供され るサービスや体験に移行している。人とモノがつながって、居場所の特定が容易になったこと で、遊休設備などを有効活用して貸し出すシェア経済が急成長してきた。  このように、つながることが産業に与えるインパクトは甚大だ。だからこそ、クルマがネット につながるコネクテッドカー時代を見据え、自動車業界も変わり始めた。自動車メーカーは、 以前は新車販売減少につながりかねないカーシェアリングを敵対視していたが、今年に入っ てカーシェア事業者と資本・業務提携する動きが相次いでいる。「自社の主力事業との共食 いを恐れずに新事業に乗り出さなければ、別の企業に敗れる」という危機感と覚悟が感じら れる。  日本の製造業が異業種やベンチャー企業との協業を通じて、「つながる時代」に合致した 価値や市場を創造できるかどうか注視していきたい。 (本稿は、2016 年 9 月 1 日 日本経済新聞夕刊「十字路」に掲載されました)