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2017年9月19日
18 年ぶりの半導体ブームに潜むバブルの匂い
チーフエコノミスト
増田 貴司

1.景気見通し: 日本経済は内需主導の回復持続シナリオに変更なし  17 年 4~6 月期の実質 GDP 成長率(2 次速報)は前期比+0.6%(同年率+2.5%)と、1 次速報の同+1.0%(同年率+4.0%)から下方修正された。これは GDP 統計 1 次速報段階 の設備投資を中心とする過大推計が修正されただけで、実体経済が下ブレしたわけではな い。4~6 月期の日本経済が主要内需項目(個人消費、住宅投資、設備投資、公共投資、政 府消費等)がすべて増加する、高めの成長だったとの評価は変わらない。 先行きも内需主導の景気回復が持続するとのシナリオに変更はなく、2017 年度の実質成長 率は 1.7%、2018 年度は 1.2%になると予測する。日本経済の実力を示す潜在成長率(0% 台後半とされる)を上回る成長率が2015年度から2018年度まで4年連続で続く見通しだ。 足元の内需は堅調で、国内要因で現在の景気回復が途絶えることは考えにくい。21 世紀に 入ってからの日本では、回復基調にある景気が変調をきたすきっかけは、ほとんど常に海 外要因である(唯一の例外は東日本大震災)。   したがって、景気が上記標準シナリオに反して低迷するサブシナリオとしては、米国の 不透明な経済政策や欧州の政治動向、北朝鮮情勢の緊迫化といった地政学リスクなどの海 外発のリスクが顕在化する場合が考えられる。 日本の主要輸出先である米国と中国の成長テンポが鈍化するリスクにも警戒が必要だ。 足もとの米国経済は、政策に頼らずとも消費主導で底堅い成長が続く地力があるため、ト ランプ政権内の混乱が続いても景気が崩れることはないとみられる。それでも、米国の景 気拡大局面は 8 年を超え(戦後の景気拡大の平均期間は 5 年弱)、既に成熟化段階にある中 で、日本の米国向け輸出の主力商品である自動車にピークアウトの兆しが見られる点は懸 念材料である。  一方、中国経済については、足元の成長テンポが持ち直した理由が今年 10 月より開催さ れる 5 年に 1 度の共産党大会を睨んだ政策対応にあったことを踏まえれば、2018 年以降、 この反動である程度成長鈍化することは避けられない。不動産関連を中心とする固定資本 形成の鈍化や住宅実需の停滞、民間企業の景況感悪化などにより、中国経済の減速がきつ くなる恐れもあり、注意が必要だ。 2.金融環境: 米欧の量的緩和縮小に関する不透明感は払拭  米連邦準備理事会(FRB)は 9 月にかねてからの課題であった資産購入額の段階的縮小 (テーパリング)の開始を宣言し、12 月には追加利上げを実施すると予想される。深刻な 経済ショックが発生しない限り、FRB の資産縮小(バランスシート正常化)プログラムが 粛々と進められる見通しだ。  一方、.欧州でも景気が回復基調にある中で、金融政策を正常に戻そうと、欧州中央銀行 (ECB)は 10 月の理事会で来年以降の資産購入プログラムの縮小を発表する可能性が高い。  この結果、長らく市場に存在した米欧の量的緩和縮小に関する不透明感は、今秋いった ん払拭されそうである。  なお、FRB の資産縮小の開始については、市場で織り込み済みの既定路線であるため、 当座は世界経済に混乱を与えることはないだろう。しかし、FRB の資産縮小は、米国の金 東レ経営研究所「エコノミスト・アナリストのコラム」 2 融政策正常化という一国の問題ではなく、長年続いた世界的な異例の量的金融緩和によっ てもたらされたグローバルな問題であり、世界のマネーフローの一大変化を意味する。こ のため、FRB 資産縮小が世界経済にもたらす中長期的な影響を軽視すべきではない。  それでも、現状、米国景気に過熱感がみられず、インフレ率が目標を下回って推移して いる中、FRB のバランスシート縮小・追加利上げはゆっくりとしたペースで慎重に進めら れる公算が高い。したがって、これが世界の金融市場に混乱をもたらす事態は回避される だろう。 3.注目点: 18 年ぶりの半導体ブームに潜むバブルの匂い  2016 年後半以降、世界経済が堅調に推移している背景には、IT 関連需要の拡大がある。 半導体など電子部品の輸出が世界的に持ち直したことが、世界景気を押し上げる要因の一 つとなっている。昨年後半以降の世界半導体出荷の急増ぶりは「IT バブル」と言われた 1999 年に匹敵するほどの勢いで、18 年ぶりの半導体ブームの様相を呈している。それだけに、 今回の半導体ブームの持続性は世界景気の先行きを読む上で重要なポイントとなる。 足元では世界の半導体出荷の増勢にピークアウトの兆しが出始めている。米調査会社 IDC によれば 17 年 4~6 月の世界のスマートフォン出荷台数は前年同期比割れとなった。この ままスマホ販売の減速が続けば、循環的に世界の半導体需要が調整局面入りしてもおかし くない。  だが、市場では半導体ブームがすぐに終焉する心配はなく、2018 年末ごろまでは堅調な 推移が続くとの見方が多いようだ。その根拠として、今回の半導体需要の盛り上がりはス マホだけが牽引しているのではなく、データセンター向けのサーバー、IoT(Internet of Things)関連、車載用センサー類の需要拡大など、半導体の用途拡大を反映した中長期的 な需要拡大であり、一過性のブームではないことが挙げられている。  しかし、この見方には落とし穴がある。IoT 時代に対応した用途拡大という構造的な需要 押し上げは確かに存在するが、だからといって昔のように半導体需要が一気に減退するリ スクがなくなったと考えるのは甘すぎる。構造要因によって循環要因が消えるわけではな く、両者は峻別して考えるべきものだ。  半導体需要は新たなフェーズに入り、「過去のようなシリコンサイクルは終焉した」との 見方も一部で聞かれるが、これは構造要因と循環要因を混同した議論であると同時に、バ ブル発生時に典型的に語られるロジックに似ている点が気になる。 振り返れば、バブル景気に沸く中、わが国の経済白書(1991 年版)は在庫循環がなくなっ たかのような記述をした。1990 年代後半の米国では、「IT の活用によって在庫調整が極限 まで行われるようになった結果、見込み生産や需給のタイムラグが消失し、景気循環がな くなる」というニューエコノミー論が台頭した。今の半導体ブーム持続論にはこれらと類 似した匂いが感じられる。  もちろん、利益をまだ出していない(出せるかどうか不明な)企業でも、「インターネッ ト業務開始」を宣言するだけで多額の投資資金が集まった「インターネットバブル」当時 と違って、今の半導体ブームは IoT や AI(人工知能)など実体のある革新的技術の裏付け がある需要拡大で、健全なものだと反論する者もいるだろう。  しかし、実体を伴う需要拡大シナリオであっても、実需と仮需の区別は難しいし、見通 しにバブル的要素が潜入することはよくあることだ。合理的に説明できるとされていた需 要予測が過大だったと判明すれば、一気に過剰設備が発生し、調整局面入りすることは避 けられない。  以上の点を踏まえ、今の半導体ブームが終焉し、調整局面入りするリスクシナリオも想 定しておくべきだろう。この観点から、今秋に発売される Apple の iPhone 発売 10 周年の 東レ経営研究所「エコノミスト・アナリストのコラム」 3 新モデルの販売動向が想定通りとなるか注視する必要がある。また、2018 年中に中国で大 幅に増強される半導体製造装置の本格稼働による供給過剰がいつ発生するかの見極めが重 要となる。 (本稿は 2017 年 9 月 14 日付「 QUICK エコノミスト情報」として配信されました)