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2021年11月16日
高性能レーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析計によるホウ素中性子捕捉療法用ホウ素薬剤の可視化について

【要旨】 株式会社東レリサーチセンター(所在地:東京都中央区日本橋本町一丁目1番1号、社長:川村邦昭)は、大阪医科薬科大学の天滿 敬教授と取組んでいるホウ素中性子捕捉療法(BNCT)用ホウ素薬剤に関する共同研究において、高性能レーザー照射型誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)により、BNCT薬剤の分布を組織レベルで可視化することに成功しました。 【背景】 放射線治療は、外科療法、化学療法と並んで、がんの標準的三大治療法として位置付けられています。がん放射線治療においては広いがん種に対応できるX線治療が主流ですが、X線治療はもちろんのこと、陽子線治療や炭素線治療でも対応が困難ながんもあり、現在、様々な技術開発が行われています。 ホウ素中性子捕捉療法(BNCT : Boron Neutron Capture Therapy)は、ホウ素と低速中性子の核反応によって放出されるヘリウム核とリチウム核によって、がん細胞を破壊する放射線治療法です。捕獲反応後に放出される2つの粒子は飛程が短く、一般的な細胞径を超えないため、ホウ素化合物を投与後に中性子を照射することで、がん細胞だけを破壊することが可能になります。本治療法の効果を最大限発揮するためには、ホウ素化合物をがんに選択的かつ十分量集積させる必要があることから、その可視化技術の開発が求められていました。 LA-ICP-MSは、レーザー光を固体試料に照射し、試料の一部を剥離させて生じた微粒子をICP-MSへ導入して測定を行う分析装置です。当社では昨年度、フェムト秒レーザーとガルバノ光学系を搭載した高性能のLA-ICP-MS を受託分析会社で初めて導入し、従来の質量イメージング法では困難であった軽元素の高感度イメージング測定技術開発に取り組んできました。 【今回の成果】 この度、大阪医科薬科大学の天滿 敬教授ご協力のもと、担がんマウスに投与されたBNCT用ホウ素薬剤の体内分布を、高感度測定が可能なフェムト秒LA-ICP-MSにより、組織レベルで明らかにすることに成功しました。 以下に、具体的な分析結果を示します。 図1にマウスがん組織におけるBNCT用ホウ素薬剤の分布像を示します。左図に示した光学顕微鏡写真から、がん組織の部位により、細胞の密な部分と疎な部分が存在していることが分かります。 右図は、左図に四角で示した領域をLA-ICP-MSで測定し、検出されたホウ素元素を可視化したものです。本結果から、LA-ICP-MSを用いることにより、薬剤中のホウ素の質量を特異的に検出できるため、組織中に存在する他成分の妨害を受けず、がん組織に微量に存在するBNCT用ホウ素薬剤の分布をイメージングできることが分かりました。ホウ素はがん組織に広く検出されましたが、その分布は、細胞密度と必ずしも一致せず、細胞が密であっても、ほとんどホウ素が検出されない場所があることも分かりました。この結果は、BNCT用ホウ素薬剤が集積しにくい細胞の存在を示唆しており、当社では、さらなる高分解能分析を継続して行っています。 本分析例のように、当社で保有する高性能LA-ICP-MSを用いた質量イメージング法は、組織に内在する成分の妨害を受けず、高感度で生体中の目的元素を可視化することができます。

図1

図1 マウスがん組織におけるBNCT用ホウ素薬剤分布像

(左)光学顕微鏡像、黄線はLA-ICP-MSによる測定領域を示す。        (右)LA-ICP-MSによる左図測定領域のBNCT用ホウ素薬剤分布像 【今後の展望】 今回の成果により、高性能LA-ICP-MSのライフサイエンス分野での活用の新たな可能性が示されました。当社で保有するLA-ICP-MSでは、大気圧下において、固体試料中にppm以下で存在する微量元素の検出が可能です。この特長を最大限活かすため、現在、動物に投与した医薬品の組織分布のみならず、定量まで行う組織内定量イメージングを確立すべく、測定系の構築を進めています。本手法により、創薬初期段階において、試験管内で行われる薬剤評価の生体における薬効発現の科学的根拠の獲得に威力を発揮するばかりでなく、創薬研究・医薬品開発の確実性を高め、開発期間の短縮に貢献できると考えています。更に、細胞内のどの部分にホウ素が分布しているのかに関しても、日本初導入のNanoSIMS(高空間分解能50 nm)を用いて分析を行っていく予定です。最新の分析技術を一刻も早く医薬品開発の現場に届けることができるよう、今後も技術開発を進めてまいります。

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   E-mail:bunseki.trc.mb@trc.toray

   技術開発企画部LI分析推進室 担当:鬼塚
   TEL:077-533-8742

   無機分析化学研究部無機分析化学第2研究室 担当:藤崎
   TEL:077-533-8624